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大阪高等裁判所 昭和49年(ラ)347号 決定 1975年3月12日

抗告人

牛田正郎

大阪地方裁判所が、日本熱学工業株式会社の申立てた同庁昭和四九年(ミ)第五号会社更生手続開始申立事件について

同年一一月一二日になした申立棄却決定に対し、抗告人から即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

(一)  抗告人が抗告権を有するか否かについて、

原決定認定のとおり申立会社に破産の原因たる事実の虞があることは明らかである。

ところで、本件記録によると、抗告人は申立会社の発行済株式の総数二〇、三六〇、〇〇〇株の一〇分の一以上に当る四、七〇五、七八二株の株式を有する株主であることが認められる。そうすると、抗告人は、会社更生法第三〇条第二項により、申立会社の会社更生手続開始の申立をなしうる資格を有するものである。そして、かかる資格を有する株主は、同法第五〇条第一項の申立会社の会社更生手続開始の申立の棄却決定に対し、法律上の利害関係を有する者として、即時抗告をすることができると解するのが相当である。したがつて、抗告人は本件抗告権を有するものというべきである。

(二)  抗告理由について、

当裁判所は、本件抗告は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加するほか、原決定の理由に記載するとおりであるから、これをここに引用する。

(1)、まず、抗告人は、申立会社の企画する公害防止システムの設計施行、太陽熱利用空調給湯システムの設計施行について、現段階でスポンサーのいないのはスポンサー捜しが時間切れとなつたためで、決して再建が不可能なわけではなく、申立会社のような大規模な特殊な倒産会社についての決定には必要な考慮期間を通常の場合に比較して三ケ月から六ケ月延長した時点において更生の見込がないかどうかを判断すべきであり、決定の時期が遅れても、現在は全従業員を解雇し、債権者に対する配当分の減少を憂慮することもない旨主張する。

しかしながら、申立会社が更生の見込がないかどうかを判断するについては、単に申立会社の企画する前記事業部門について資金の提供者があることのみで足りるものではなく、さきに引用した原決定も詳細に判示しているとおり、申立会社の企業の全部門に亘り、その収益力を従前の経営状態、同種企業との競争状況、業界における信用度、取引先の協力度、申立会社の有する技術、熟練従業員の有無と確保の状況等あらゆる方面からこれを検討し、さらに、申立会社の負債、債権者の協力の有無、申立会社らの再建計画案等を考え併せて決すべきである。しかも、原決定認定のような申立会社の状態のもとにおいては、仮に決定の時期を遅らせても、申立会社が相当な資金の提供者を得ることが困難であることは容易に推測できるし、また、仮に申立会社の企画する前記事業部門につき資金の提供者が得られたとしても、近い将来に、新事業により申立会社の負担する莫大な債務の弁済に寄与するだけの利益が得られることを予測することは困難である。加うるに、昭和五〇年二月二六日付保全管理人植垣幸雄の上申書によると、原決定後、申立会社の全従業員はすでに解雇せられ、申立会社は現在保全管理人が任命され、同管理人の手で会社財産の保全管理が、その必要最少限度の従業員(現在員二七名)の再雇傭によつて確保されている状態であることが認められる。以上の諸事情を考慮すると、抗告人主張のように決定を遅らせたとしても、申立会社の更生について異なる判断がなされることはとうてい期待できない。

他方、前記保全管理人の申立書によると、現在申立会社の資産のうち、棚卸資産が約一〇億円存し、このうち借倉庫に保管されている商品も多く、その倉敷料、再雇傭従業員の給料(社会保険料を含む)、並びに家賃その他の経費等の必要経費の一か月の支出額のみでも概算約二、二〇〇万円の多額にのぼることが認められるのみならず、申立会社の多額の債務の整理並びに棚卸資産の処分に多大の労力と資金が要求され、現在その両面の確保が疑問であり、更生の見込みの判断の時期を遅らせることは申立会社の債権者に多大の損害をかけることになることが認められる。

以上のとおりであるから、抗告人主張のように、更生の見込の判断の時期を遅らせることは、債権者に多大の損害をかけることになるし、かつ判断の時期を遅らせることによつて判断が異なる可能性は極めて少ないのであるから、抗告人の前記主張は採用するに由ない。

(2)、次に、抗告人は、申立会社に早急にスポンサーが見つからないので、申立会社自体にスポンサーを必要としない特許管理会社システムの構想を企画し、申立会社は波羅密興産株式会社(仮称)及びサンエンジニアリング株式会社(仮称)を別に設立し、前者は特許申請中の自動冷却枕及び太陽熱利用空調給湯機器を製造販売し、各第二会社は特許権の実施料を申立会社に支払つて更生資金とするもので、各第二会社は現在設立準備中であり、波羅密興産株式会社は一週間以内に登記を完了する予定で、新製品の商品化、有力商社と第二会社とのドッキングによる販売ルートの確立は現在仮契約が成立し、具体的販売活動は三ケ月以内に実現する予定で、商品の品質、性能について自信をもつて販売できるよう厳密なテストを行つている段階であり、この構想による債権者に対する弁済はサンエンジニアリング株式会社が昭和五〇年から一五年間で約四六億七、八〇〇万円、波羅密興産株式会社が昭和五〇年から一二年間で約七二億円の各実施料の支払により申立会社は資金の調達ができるし、申立会社の債権者は、申立会社が第二会社を発足させ、会社更生開始手続の決定が出れば、債権者集会において管財人らによる説得によつて再建を援助する方向に転換することは確実であると主張する。

ところで、昭和五〇年二月三日付の波羅密興産株式会社代表取締役蛯原凌が当裁判所に提出した上申書添付の同会社の商業登記簿謄本によると、同会社は、東京都江東区住吉町二丁目九番三号大光ビル三階に本店を置く、会社の発行する株式の総数八〇、〇〇〇株、一株の金額五〇〇円、発行済株式の総数二〇、〇〇〇株(一、〇〇〇万円)の、(イ)太陽熱利用セントラルヒーティングの設計設備(ロ)空調機器製造販売並びにアフターサービス(ハ)医療機器の製造及び販売(ニ)日用雑貨製品の製造及び販売(ホ)前各号に附帯する業務を目的として昭和四九年一二月三日設立せられた株式会社で、取締役には蛯原凌、原口達一、渡邊四郎、牛田住子、董時治、代表取締役に蛯原凌、監査役に山口忠助、牛田美子がそれぞれ就任していることが、また右上申書によると、右会社が営業を開始し、右目的に向つて邁進せんとしたところ、同会社の相談役である牛田正郎(申立会社代表取締役、抗告人)が犯罪容疑により逮捕、拘留せられたことが認められる。しかし、同会社の新製品が商品化せられ、有力商社とのドッキングによる販売ルートの確立につき仮契約が成立していることを認めるに足る証拠はない。そして前記(1)で認定したとおり、申立会社がその従業員全員を解雇した現在、第二会社に必要な、有能な技術者を確保できるかどうか多分に疑問があり、また、申立会社の代表者である抗告人を始め申立会社の一部の幹部が刑事処分を受ける虞れもあるような状況のもとで、右の程度の規模の第二会社波羅密興産株式会社の営業により、抗告人主張のような特許権実施料を申立会社に支払うだけの収益をあげることを期待することは不可能であると考える。元来原審判示のとおり、自動冷却枕のような新製品の販売をするためには、コインクーラーの轍を踏まないよう商品の品質性能について厳密なテストをくりかえし、事前に充分な市場調査を行つて需要の見込を確かめ、厳格な資金計画をたて、かつ販売ルートが確立されなければ失敗に終る可能性が大きいところ、現在これらの条件はすべて満たされておらず、将来にかかつており、その可能性にも多分に疑問があるのであつて、多数の債権者の犠牲において行う更生会社の事業内容としては危険が余りにも大きい。また、太陽熱利用空調給湯機器についても、原審判示のとおり、全くの新製品であるから、一層その危険が大きく、前記自動冷却枕のところで述べたとおりの諸条件は現在すべて満たされておらず、将来にかかつているところ、未だテストの段階にあるこの新しい事業により近い将来に抗告人主張のような債務の弁済資金に寄与するだけの相当量の利益を得られると予測することは困難であるし、この事業に必要な相当額の資金の提供者が現在存在しないのみならず、前判示のとおり将来もこれを探すことは困難であると思われる。次に、サンエンジニアリング株式会社については、原審判示のとおり、現段階では未設立で、資本金や運転資金の出所も未定であり、原決定理由二の1及び3で説示したことが殆んど該当し、前判示のとおり将来も資金の確保に多分の疑問がある。

結局、二つの第二会社の設立による更生の構想によつても申立会社には更生の見込がないと認めざるを得ないから、前記抗告人の主張は採用するに由ない。

(三)  結論

以上のとおりであつて、抗告人の各主張はいずれもこれを採用することはできないし、他に記録を精査するも原決定を取消すべき違法の点も見当らないから、申立会社の更生の見込がないことを理由に申立会社の会社更生手続開始の申立を棄却した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、失当として棄却すべく、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(柴山利彦 弓削孟 篠田省二)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

申立会社に対し更生手続を開始する。との決定を求める。

抗告の理由

一、抗告人は申立会社の代表取締役であり、三六五万株(発行済株式総数に対する割合は一八%)を所有する株主で、且つ申立会社に対し金一億四、九〇〇万円の債権を有するものである。

二、原審裁判所は申立会社が更生の見込みがない理由として、公害防止システムの設計施行、太陽熱利用空調給湯システムの設計施行については充分将来性を認めながら新事業であり、現段階ではスポンサーのいないことを指摘している。

しかし、その原因は後述の如くスポンサー捜しが時間切れとなつたことであり、決して再建は不可能ではないのである。申立会社のような大規模な特殊な倒産会社についての決定に必要な考慮期間を通常の場合に比較して三ケ月から六ケ月延長した時点において更生の見込があるかどうか判断さるべきである。

即ち申立会社は経理内容が不明で監査法人による調査が更生手続開始申立より三ケ月も経過して報告書が作成され、始めてその内容が明らかになり、その間その負債内容が正確につかめない為スポンサー候補との接渉が困難であつたこと、府警の強制捜査による妨害でせつかくまとまりかけた有力スポンサーとの話も敬遠されたこと等により、実際に特許管理会社システムの構想を打ち立て有能なる企業管財人を探す段階に入つたのは九月下旬からであつた。

特に現在のような国の内外を問わず経済状態の最悪の時期においては経済状態が小康状態に回復するまで多少の期間の延長を認めても良いのではないかと考える。原審裁判所は以上の点については理解していても申立会社が多くの従業員をかかえて給料支払等多額の支出によつて損害が増大し破産決定の時、債権者に対する配当分が減少することを憂慮し、決定を急いだことは理解できないことはない。

しかし現在は全従業員は解雇され、この点の心配はなくなつたのである。

三、申立会社は早急にスポンサーが見つからないので急拠申立会社自体スポンサーを必要としない特許管理会社システムの構想を打ち立てた。即ち申立会社は波羅密興産株式会社を別に設立し、特許申請中の自動冷却枕及び前記の太陽熱利用空調給湯機器を製造販売し第二会社は特許権の実施料を申立会社に支払つて更生資金とするものである。

原審裁判所はその構想が資産をこれ以上減少させず特許料のみ回収できる点でスポンサーを必要とせず申立会社自体が事業を行う場合より有利、安全である点、自動冷却枕の着想の良さ、太陽熱利用空調給湯システムの有望性を認めながら、現段階において第二会社の未設立、新製品の商品化がなされていない点、販売ルートが確立されていない点を更生の見込がない理由としている。

しかし、第二会社は現在設立準備中であり波羅密興産株式会社は一週間以内に登記完了する予定である。新製品の商品化、有力商社と第二会社とのドッキングによる販売ルートの確立は現在仮契約が成立し、具体的な商品販売活動は三ケ月以内に実現する予定である。よつて、商品の品質、性能について自信をもつて販売できるよう厳密なテストを行つている段階である。

原審裁判所が危惧したこれらの商品販売実現化が将来にかかつておるので多数の債権者の犠牲において行う更生会社の事業内容としては危険が大きいという点については、昭和四九年一一月一二日決定がなされた直後、従業員を全員解雇し退職金等も支払済であり一部従業員はサンエンジニアリング(株)に雇用される仕組になつており今後は多少の日時の経過によつて給料支払等の財産の減少はなく債権者に迷惑がかかる原因がなくなつた訳である。

この構想による債権者に対する弁済はサンエンジニアリング(株)が昭和五〇年度から一五年間で約四六億七、八〇〇万円、波羅密興産(株)は昭和五〇年度から一二年間で約七二億円の実施料の支払により弁済資金を調達できるのである。しかるに破産宣告になれば一般債権者には債権額の三%位の配当かあるいは申請中の特許権等の財産は無価値となるので無配当になる虞れがある。

債権者の為には是非共、申立会社の構想を実現させる価値はあるのであり、前述の如く三ケ月延長しても従業員の解雇による財産の減少するデメリットが消滅したのであるから債権者の為にも又、一部上場の会社の破産という国際的な不名誉を回避し、更生して国際的信用の回復を計らなければならない。

四、原審裁判所は大多数の債権者が、会社更生法の適用に消極的であり、速やかに決定を求めているし申立会社の再建に積極的に援助する意思を表明する債権者は少なく、その援助のみによる更生の可能性はないと判示するが、この点について反論すると、

債権者は現在まで一回も債権者集会をもたず申立会社等の前述した構想等の説明会等もしなかつたのであるが、裁判所の心証は裁判所によつてアンケートをとられ、それによる資料に基づいてなされたものと思われるが、その時点では府警による一部役員の逮捕、監査法人等の調査報告による更生見込困難という意見がテレビ、新聞等で報道された時期であつたこと等が債権者の心証を害し、希望を失わせ、従つて会社更生をあきらめさせた要因をなしていることは事実である。そしてどうせ見込がなく破産になるのであれば一刻でも早く破産になつた方が従業員等の給料分による支出分が節約でき債権者に対する配当が多くなるのではないかという印象を持つたことである。

五、よつて債権者は申立会社が第二会社を発足させ更生開始手続の決定が出れば債権者集会において管財人等による説得によつて再建を援助する方向に転換することは確実であり、以前の様な時の経過による従業員の給料支払による財産の減少というおそれは消滅したのであり破産の場合の配当分はほとんど零という条件に比し、更正すれば債権者に満足してもらえる弁済をするのであるから当然右のような希望がもてることは自明の理である。

六、本件即時抗告については抗告人個人の申立となつているが、申立会社における即時抗告申立の可否決定について取締役会においては申立会社取締役の約三分の一の出席者しかなく、しかも可否の決議は僅少差で否決されたものである。抗告人としては右結果については誠に残念であるが、申立会社の社長としての責任上、債権者に対し少しでも多くの返済をしようと努力している現在あえて本申立をしたものであり、何卒右事情御賢察の上再度考慮され原決定を取消し、更生開始決定されるよう申請するものであります。

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